Monday, September 6, 2010
 

001-素晴らしき2デイズの世界

全員必死だから、仲間やライバルの完走も喜べる

全員必死だから、仲間やライバルの完走も喜べる

トップだけのものじゃない

 JEC — Japan Enduro Championship —、つまり全日本エンデューロ選手権。全日本選手権なんて聞いて「これは俺には関係ない」と思うライダーは多いのではないだろうか。僕ももし、今からエンデューロを始めようかな、と思っているなら敬遠するかもしれない。
 だが、ロードレースやモトクロスの全日本選手権とエンデューロが大きく異なるのは、基本、それぞれの大会が独立したアマチュアイベントを背景にもつということだ。まあ、ロードレースやモトクロスもルーツをたどれば同じところに行き着くのだと思うが、2005年に全日本選手権が始まったばかりのエンデューロの世界では、ある種ルーツの姿がそのまま残されていることが特徴である。この特徴は、エンデューロというスポーツの特質を考えれば、今後時を経ても変わっては行かないはずだ。

友達と、彼氏と、彼女と楽しむライダーも多い

友達と、彼氏と、彼女と楽しむライダーも多い

 つまり、全日本選手権とは言っても、大会自体はアマチュアのものなのである。SUGO、山都、日高、それぞれの大会のなかの1クラスとして、全日本選手権が開催されるのである。
 ロードレースやモトクロスの世界では、全日本のトップクラスの選手と「初めて本格的なレースに出た」ビギナーが混じって走ることなんて絶対ありえない。だけど、エンデューロではそれが当たり前。ただ通り抜けるだけでも難しいような難所で、ビギナーがバイクを押して必死になっている横をトップクラスのライダーが華麗に駆け抜けていく……なんてシーンは当たり前。時に、逆にガッツリはまってしまったトップクラスのライダーを横目にビギナーが通り抜けていくこともある。
 言ってみれば、オリンピック出場選手も素人も一緒に走る市民マラソンのようなものなのだ。それぞれのライダーが、それぞれのクラスで自分のもつ能力を最大限発揮して、ある者はトップを目指し、ある者は完走を目指して闘う。だから、実際の現場ではトップランカーもビギナーも、全員が一体となって自然の地形に共に挑む空気が生まれる。じつに素晴らしい世界なのである。
 その素晴らしいチャレンジの舞台となるのが、SUGO、山都、日高、3つの2デイズエンデューロなのだ。

2デイズエンデューロの実際

金曜夜に現地入りし、準備を進める選手

金曜夜に現地入りし、準備を進める選手

 レースは2日間に渡って開催される。とは言っても、もちろん2日間ぶっとおしで走るわけではない。
 まず土曜日の朝、車検を受けて、合格したらマシンをパルクフェルメ(車両保管場)に入れる。パルクフェルメに入れたあとは、スタート直前までマシンに触ることは禁止されているので、しっかりと整備していかないといけない。
 その後、開会式、ブリーフィングを経てスタートとなる。モトクロスのような一斉スタートではなく、2〜4人づつが指定時刻に同時にスタートしていくスタイルだ。
 選手は、スタートから、各周に1〜2箇所程度設けられるタイムチェックポイントへ、指定時刻に到着すればよい。具体的には、指定時刻のちょっと前くらいに到着して、指定時刻ちょうどにタイムチェックカードをオフィシャルに渡して時刻を記入してもらうことになる。
 これを指定周回数こなせれば、完走となる。では順位はどこで競うのか? その答えが、この周回の間に複数箇所設定されている「スペシャルテスト」(以下テスト)である。
 現在、日本で開催されている2デイズエンデューロでは、エンデューロテスト、クロステスト、そしてエクストリームテストの3種類が設定される。内容は様々だが、エンデューロテストは比較的距離が長く、スピードの出ないテクニカルな山のコース、クロステストはモトクロスコース的なハイスピードなコース、そしてエクストリームテストは丸太や岩、ヒューム管などを使用した人工的なセクションだ。
 これらのテストでミスをせず、1つ1つきっちりタイムを出し、指定時刻通りに周回を重ねたライダーが上位に来る、という寸法である。ちなみに、テスト以外のコース……移動区間は「ルート」と呼ばれる。
 指定周回数を終えたライダーは、マシンをパルクフェルメに戻して初日のレース終了となる。2日目も要領は同じで、全行程終了後に完走者全員で走るモトクロスーーファイナルクロスーーがあることだけが初日と異なる。

完走者だけが走れる檜舞台、ファイナルクロス

完走者だけが走れる檜舞台、ファイナルクロス

素晴らしい空気感

素晴らしい風景の中を走る

素晴らしい風景の中を走る

 実際のところ、これまで耐久モトクロス的なエンデューロにしか出たことのないライダーにとってはなかなか想像しにくい内容のものだと思う。じつは、僕もそうだった。
 指定時刻通りになんて走らなくても、ただ全開で走らせてくれればいいのに……と、初めて出る前には思ったものだ。時刻を気にして走ることも、ぼーっと走っているとミスコースしてしまうこともあるルートを辿ることも、なんだかとても難しく感じられた。
 だけど、一度出てみたら、これが最高に面白かったのだ。それは、マンガを読んでガハハハって笑うような面白さじゃなくて、とけそうでとけないパズルを、うんうん唸りながら解いていくような面白さだった。
 はっきり言って、ルートは優しくはない。モトクロスコースしか走ったことのないライダーにとっては、信じられないほどの悪路だ。滑る斜面、狭いトレイル、ワダチ、突き出た木の根、ガレ場、沢……最初は「こんなとこを走らせられるのか」と思うだろう。
 僕にとって初めての2デイズエンデューロは日高だった。雨が降り、泥濘地となった牧場のルートは非常に難しいものとなり、僕をはねのけた。僕は泥のなかでのたうち回り、川で泳ぎ、木の根にへたり込んだ。当然、競うことなんて出来るわけもなく、完走すら出来なかった。それくらい、難しかった。
 それから完走まで数年かかったが、それでも「こんなのイヤだ」と投げ出さなかった理由は、このエンデューロが最高に……本当に心の底から最高! って思えるくらい素晴らしいものだっただからだ。
 なにが素晴らしいって、それは競技、場所だけじゃないのだ。もちろん、普段は絶対に走れない絶景のフィールドを走れることは大きな魅力である。だけど、僕を虜にしたのは、2デイズエンデューロの現場の空気感だった。
 笑顔で再会を喜び合うライダーやスタッフ。出迎えてくれる地元の人々。歯を食いしばって走ったあと、限られた時間のなか真剣そのものの表情でタイヤ交換をする選手たち。そして、埋まったり上れなかったりして呆然としている僕を奮い立たせてくれた、いくつもの応援の言葉の数々。もうダメだ、もう走れない、そう思った僕を前進させてくれたのは、そんな素晴らしい1つ1つの言葉や風景、そして出来事だった。

 今でも、相変わらずのたうち回ることも多いけど、でも昔よりはずいぶんラクにルートを抜けられるようになった。だから、昔の僕のようにハマって絶望している選手には、出来るだけ応援の声をかけるようにしている。たとえ同じクラスで走るライバルであっても、ルート上では敵ではないのだ。選手それぞれ、見えない時間と闘う仲間である。
 もちろん、全日本クラスになればまた違う視点、感覚もあるのだろう。でも、全日本クラスの選手は選手で「もうダメだ、もうこれ以上攻められない」と自分を追い込みながら、それぞれが自分自身と闘っている。
 だから「金は払った、どれだけ楽しませてくれるんだ?」なんて人には絶対向かない。世の中のレジャーがどんどんと快楽的な方向に向かっていくなかで、エンデューロの世界はどこまでも選手に厳しく見える。
 でも、ユルくてまったり、だけで人生いいのだろうか? そんなことを考えさせてくれるだけでも、2デイズエンデューロには出る価値があるのだ。

FREERIDE Magazine
三上勝久

うまくいかないこともある。だからこそ、うまくいったときはすべてがより輝くのだ

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